STORY
#01
《前編》
諏訪(──急げ、急げ。今日はユニット名を決めるために、ミーティングルームへ集合することになっている。最初はバラバラだった僕達が、ユニット名をつける日が来るなんて、なんだか感動しちゃうな……。寝る時間を削ってアイデアを書き出していたら、集合時間ギリギリになっちゃった。メンバーみんなが納得いって、パッセンジャーにもすぐ覚えてもらえるような素敵なユニット名にできたらいいな……!)
諏訪「遅くなってごめん……!」
武庸「よお、諏訪」
空蝉「おーい諏訪、取れよー!」
諏訪「えっ? 『取れ』って、何──わッ!! いたっ!!」
空蝉「あははっ! ちゃんと受け取れって~!」
諏訪「んー……何これ? ゴムボール?」
空蝉「いや~諏訪が来るまで暇だったからさ、武庸とキャッチボールしてたんだよ!」
諏訪「キャッチボール?」
武庸「俺は飛んできた球を適当に投げ返してただけだけどな」
空蝉「その球が、結構重てーんだって! 武庸、お前ピッチングの才能もあんのかよ!」
武庸「熱血とは無縁の俺に、スポーツの才能なんてあるわけねえって」
諏訪「……あはは、ごめん、待たせちゃったね。じゃあ、ミーティング始めようか!」
空蝉「なあ諏訪。お前も球投げてくれよ!」
諏訪「え?」
空蝉「ミーティングの前に、軽~くキャッチボールしようぜ! 体動かした方が、良いアイデアがバンバン出てくる気がすんだよな!」
諏訪「え~っ? ……あれ? 武庸くんは、何してるの?」
武庸「んー? 漫画読んでる。先輩から借りてて、早く返さなきゃいけねえから」
諏訪「……そうなんだ」
諏訪(もしかして、今日のために張り切ってたのって、僕だけ……なのかな?)
諏訪「あ、これ……一応、僕が考えてきたユニット名の候補で──」
空蝉「ユニット名なんてさ、フィーリングで良いよな!」
諏訪「えっ……。フィーリング……って?」
空蝉「つまり、適当で良いってこと!」
諏訪「適当で!?」
空蝉「だから、まずはキャッチボールしながら──」
諏訪「──な、なに、それ……」
空蝉「……え?」
諏訪「今言ったこと、訂正してよ!」
空蝉「お、おい、諏訪?」
武庸「どうしたんだよ、諏訪」
諏訪「ぼ、僕だって、怒る時は怒るよ! 大事なユニット名を、適当で良いだなんて……」
空蝉「ちょ、ちょっと、一旦落ち着けって! な、なあ諏訪!」
諏訪「僕は、落ち着いてるってば! えっと……ちょっと、水飲んでくる!!」
空蝉「待てよ、諏訪~! ……行っちまった」
武庸「……諏訪のあんな怒った顔、初めて見たな」
空蝉「俺、ヤベーこと言っちゃったかな」
武庸「お前、ほんと日本語ヘタだよな。適当でいいってのは、言い方間違えてんだろ?」
空蝉「お前こそ、黙って漫画なんて読んでるからだろ! そりゃ誤解させちまうって~!」
武庸「お互い様だ。とにかく、誤解を解かないとな」
空蝉「ユニット名決める前に仲違いで解散なんて冗談にもならねぇぞ……早く諏訪を探しに行こう!」
武庸「ああ、急ごう」
《後編》
空蝉「――あ、いた。あそこだ!」
武庸「おーい、諏訪!」
空蝉「そんなとこで何してんだよ」
諏訪「……どんな顔して戻ればいいかわからなくて」
武庸「だからって、こんな柱に挟まって膝抱えてんなよな」
諏訪「……(頬を膨らませる)」
空蝉「怒ってる……よな?」
諏訪「……(頬を膨らませたまま)うん」
武庸「あのさ……俺が読んでた漫画、いろんなアイドルグループが出てくる話でさ」
諏訪「?」
武庸「ユニット名のアイデアが浮かばなかったから、参考になるかと思って先輩から借りたんだ」
諏訪「! そうだったんだ」
武庸「ちなみに、なんつーか、3人の頭文字とか入ってたらいいかも……とか思った」
諏訪「……なんだかその案、ツネ様らしくないね」
武庸「ははっ! 『らしくない』って言ったお返しか? ほら、空蝉も」
空蝉「諏訪、ごめん! 『ユニット名なんて適当でいい』って言ったのは、間違いだ! 訂正する!!」
武庸「ったく。空蝉、ヤケになってたんだぜ」
諏訪「ヤケって、どういうこと?」
空蝉「コイツを見てくれ!」
諏訪「ノート、真っ黒!」
空蝉「俺なりに、いろいろ考えてみたんだ。だけど、グッとくるものがぜんっぜん浮かばなくてさ~!!」
諏訪「『バチバチ☆ホームランズ』…『HIT!HIT!HIT!』…『メッチャ・ゴーソッキュー』 ……ああ、なるほど」
空蝉「俺たちユニット名がなくても、これまで俺たちらしくやってきただろ? だから、ユニット名なんてなんだっていいじゃねーかって思っちまったんだよ」
諏訪「そういうことだったんだね。(ノートを見て)……あっ、これだけ他と雰囲気が違うね」
武庸「『三人の方程式』ってやつか」
空蝉「ああ、これか。諏訪が、いつか言ってくれただろ? 『俺たちの方程式は、3人が揃わないと成立しない』って。だからそれをユニット名に使えないかと思って」
諏訪「ね、ねえ、僕のノートも見て!」
空蝉「い、いくえーじょん……?」
武庸「そうか! 『方程式』か」
諏訪「うん! 『方程式』とか、『イコールになる』っていう意味なんだ」
空蝉「すっげー!! 俺たち同じこと考えてたのかよ!!」
諏訪「ね。僕も、びっくりしちゃった!」
武庸「……なあ。これ、複数形にしても大丈夫か?」
諏訪「え? もちろんいいけど……」
武庸「『EQUATIONS(イクエイジョンズ)』。Sを入れることで、3人の名前の頭文字が入るだろ?」
空蝉「本当だ! 諏訪の『S』、武庸の『T』、空蝉の『U』!!」
諏訪「すごいよ武庸くん! すごいすごい!!」
武庸「よかった、諏訪が笑ってる」
空蝉「だな! 目、輝いてるぞ!」
諏訪「……ごめんね。もっとちゃんと、話を聞いてればよかったんだ。僕だけが3人のことを真剣に考えてるのかと思ったら、寂しくなっちゃって」
空蝉「謝ることねーって! っつーか、キレる諏訪が見られて、俺はちょっと嬉しかったぞ!」
諏訪「えっ」
武庸「なんかわかるかも。俺達はやっぱりイコールなんだなって思えた」
諏訪「……ふふ、そっか」
空蝉「これからも怒りたい時は我慢せずに怒っていいんだぞ。そのたびに話し合ってこうぜ」
諏訪「……ありがとう、二人とも」
武庸「じゃ、練習行くか。ユニット名も決まったことだし」
諏訪「うん!」
空蝉「よっしゃ~! 今日も張り切ってかっ飛ばすぜ、『EQUATIONS(イクエイジョンズ)』!!」